卑怯な猫








 ウスターが、大きくため息をついた。
 それを見ていたプリンプリンが心配して、どうしたんだよと無愛想に尋ねた。
「いや……な。」
 それだけ言ってウスターは黙っていた。しばらく待っていたプリンプリンが、この話はやめにしようかと思った頃、
「時々ふっと、思い出すんだ。」
 ウスターはようやく続きを口にした。
「何をだよ。」
「俺が最初、コロッケの禁貨をだまし取ろうとしていたことさ。」
 は? ともれかかった声をプリンプリンは危うく飲み込んだ。
 初めて会った時、そう、バンカーサバイバル開催中のマカデミア島で会った時から、ウスターとコロッケは行動を共にしていた。小さな少年バンカーと、大人の獣人バンカー。妙な取り合わせだなというのが、最初の印象だった。妙な取り合わせだが息は合っているなというのが、今も変わらぬ印象だった。そんな彼らの付き合いが、ウスターの邪心で始まっていたとは。意外といえば意外だったが。
「お前は今も昔も卑怯なやつだなー。」
 プリンプリンはちょっと悪ふざけるように笑ってやった。
 お前に言われたくねーよ、といつものウスターなら返すところだった。ところがその時の彼は、プリンプリンの言葉を聞いてか聞かずか、神妙な顔つきで宙を眺めるばかりだった。
 気まずくなった空気の中で、プリンプリンは二、三度視線を泳がせた。それからウスターのほうをちらっと見、ややあって、お前はよと口を開いた。
「今でも思ってんのかよ。」
「何をだよ。」
「コロッケをだまそうって。」
 プリンプリンの問いにウスターは明らかに気分を害したらしく、半ば怒った口調でそんなわけねえだろ、と答えた。プリンプリンは、呆れたようにヘッと息をもらした。
「じゃあいいじゃねえか。そんな昔のことは、もう。胸張ってコロッケの隣にいてやれよ。」
 ウスターはすぐにはうなずかなかった。すでに我関せずのふりをしているプリンプリンの横顔をしばらく見つめ、それから少し笑った。
「まあ……あいつのこと裏切らなくて良かったとは、心底思ってるさ。」
 そんなことくらい、プリンプリンも知っていた。

Fin.





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